特定口座における投資一任契約に係る費用の取扱いについて

 令和3年度税制改正において、特定口座(源泉徴収有り)における上場株式等の譲渡等による事業所得の金額又は雑所得の計算上、当該特定口座を開設している証券会社等に対する投資一任契約係る費用は必要経費に算入できることとなることが明確化されました。この改正は令和4年分以後の所得税及び住民税について適用されます。

(1)投資一任契約とは

 投資一任契約は、証券会社等の運用のプロに運用を行ってもらうサービスで、「ファンドラップ」や「ラップ口座」と呼ばれています。通常、そのファンドラップを開設する証券会社等に対して固定報酬や運用成果に応じた成功報酬が発生します。

(2)株式譲渡益課税の仕組み

 上場株式等の譲渡益は、原則として「申告分離課税」が適用され、他の所得と区分して計算し税額を算出します。総合課税される所得と区分するだけでなく、非上場株式等の譲渡損益とも区分します。

 また、株式等の譲渡による所得は、譲渡所得、雑所得、事業所得に区分(これらの3区分を総称して譲渡所得等と言います。)した上で、これらの所得間で損益通算が行われます。

 税法上、株式の譲渡に係る所得がどの区分に該当するかは、営利を目的に反復・継続して取引が行われているかどうかによって判定することとされています。取引の状況から、営利目的かつ反復・継続と判定される場合は、事業所得又は雑所得となり、一般的な個人の譲渡は譲渡所得に該当するケースが多いと考えられます。

 今回の令和3年度の税制改正では、事業所得・雑所得について必要経費に算入するとありますから、単純な譲渡所得の経費にはならないこととなります。ただし、これらの譲渡所得・雑所得・事業所得は所得間で損益通算がされますから、結局は経費としての効果を得られることとなります。

(3)従前の取扱い

 国税庁HPの確定申告書作成コーナーにおける「特定口座の申告に際し費用を追加計上できる場合」によると、

国税庁HPより

 つまり、ファンドラップに係る報酬は費用計上されることが想定されているものの、証券会社等が発行する「特定口座年間取引報告書」では譲渡所得等の計算において考慮されていませんでした。

 そのため、ファンドラップに係る報酬を必要経費と考える方は敢えて確定申告を行って費用を追加計上するのに対し、当該報酬を必要経費と考えてこなかった方は必要経費にできていない状況になっていました。

(4)今後の取扱い

 令和3年度の税制改正により、令和4年1月1日以降に作成される「特定口座年間取引報告書」からは証券会社等があらかじめ報酬を費用として計算した上で税額が計算されることが見込まれるため、追加計上のために申告をしなければならないということは無くなることが予想されます。

令和3年3月16日