遺留分侵害額請求に基づく代物弁済における課税関係

 遺留分減殺請求の金銭債権化を含む改正後の遺留分制度が、令和元年7月1日より施行されています。従来の遺留分制度の法的性質は、遺留分権利者の意思表示によって当然に物件的効力が生じ、直ちに遺贈又は贈与が失効(その目的財産の所有権又は共有持分権が遺留分権利者に帰属)していましたが、改正後は遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生するのみとなり、受遺者等は金銭の支払をすれば足りることとなりました。

 また、受遺者等が金銭で支払うことが困難で当事者間の合意がある場合は、金銭の支払に代えて他の財産を給付することも可能です。ただし、資産の給付については、改正前は相続税の修正申告や更正の請求で課税関係が終了していましたが、改正後は代物弁済(民法482条)に該当することとなり、譲渡所得が発生することに注意が必要です。

(1)代物弁済とは

代物弁済は、本来の金銭の給付に代えて他の財産の給付をなすことによって既存の債務を消滅させる有償契約であることから、その代物弁済により移転する資産が譲渡所得の起因となる資産であるときは、その移転があった時にその資産を譲渡したことになります。

 このとき、その代物弁済により消滅した債務の額に相当する価額によりその資産を譲渡したこととなるため、その消滅した債務の額がその資産の譲渡所得の収入金額となります。

 ただし、通常はその資産の時価に相当する債務の額を消滅する旨の合意が行われますが、その資産の時価とその遺留分侵害額に差額が生じる場合も想定されます。その様な場合は、その当事者間の合意に至る経緯やその合意内容等を踏まえ、その資産の移転により消滅した債務の額を個々に判断し、譲渡所得の収入金額を決定する必要があります。

(2)移転した資産の時価と遺留分侵害額に相当する金額との間に差額が生じる場合における譲渡所得の収入金額

①資産の時価が遺留分侵害額を上回る場合

 例えば、遺留分侵害額2,000万円の請求に対し、受遺者等が時価2,500万円の資産を債務の履行として移転した場合において、受遺者等が遺留分権利者からその差額に相当する清算金500万円を受領するときは、資産の移転により消滅した債務の額2,000万円と清算金500万円の計2,500万円が譲渡所得の収入金額となります。

②資産の時価が遺留分侵害額を下回る場合

 例えば、遺留分侵害額2,000万円の請求に対し、受遺者等が時価1,500万円の資産を債務の履行として移転した場合において、受遺者等が遺留分権利者に対して清算金500万円の支払をするときは、資産の移転により消滅した債務の額1,500万円が譲渡所得の収入金額となります。

(3)遺留分侵害額請求に基づく金銭の支払に代えて移転を受けた資産の取得費

 遺留分侵害額請求権の行使により、その履行として資産の給付を受けたときは、その履行があった時において、その履行により消滅した債権の額に相当する価額によりその資産を取得したこととなります。

 ただし、その資産の時価とその遺留分侵害額に差額が生じる場合は、その当事者間の合意に至る経緯やその合意内容等を踏まえ、その資産の移転により消滅した債権の額を個々に判断し、資産の取得価額を決定する必要があります。

(4)移転した資産の時価と遺留分侵害額に相当する金額との間に差額が生じる場合における資産の取得価額

①資産の時価が遺留分侵害額を上回る場合

 例えば、遺留分侵害額2,000万円の請求に対し、受遺者等が時価2,500万円の資産を債務の履行として移転した場合において、遺留分権利者が受遺者等に対しその差額に相当する清算金500万円を支払うときは、資産の移転により消滅した債権の額2,000万円と清算金500万円の計2,500万円が資産の取得価額となります。

②資産の時価が遺留分侵害額を下回る場合

 例えば、遺留分侵害額2,000万円の請求に対し、受遺者等が時価1,500万円の資産を債務の履行として移転した場合において、遺留分権利者が受遺者等からその差額に相当する清算金500万円を支払を受けるときは、資産の移転により消滅した債権の額1,500万円が資産の取得価額となります。